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50代からの女性のための人生相談・101
人生相談:母を看取り生きがいがなくなりました…
元結不動・密蔵院住職
名取芳彦
公開日:2022.11.22
更新日:2024.03.01
読者のお悩みに専門家が答えるQ&A連載。52歳女性の「2年間支えてきた母を2か月前に亡くし、何をしても楽しい気持ちになれない…」というお悩みに、仏教の教えをわかりやすく説いて「穏やかな心」へ導く、住職・名取芳彦さんが回答します。
52歳女性の「母を看取り、生きがいがなくなった」というお悩み
母(実母)は約2年間、がんの闘病をしていました。その間、私は母を支えることが幸せであり、生きがいでした。
そんな母が2か月前に81歳で亡くなり、言いようのない喪失感と寂しさで、生きる希望が湧かず、母の死後、何をしていても楽しい気持ちになれません。
さらに、手続きのために戸籍謄本を取り寄せたことで、三姉妹だと思っていた母には、本当はさらに姉と弟(両方既に他界)がいることを初めて知り、その事実にも気持ちが乱れ、心がついていきません。
この先、どのように心の整理をつけて、生きていけばよいのでしょうか。
(52歳女性・A.Mさん)
名取さんの回答:「2年は心の整理の時間」と考えて
2年間の看護、大変でした。治癒あるいは延命のための治療が、お母様には苦しむだけの時間になったのではないか……。治療方法、ケアの選択が本当に正しかったのか……。
お母様が亡くなった今、多くのことがフラッシュバックすることでしょう。
私の場合、母は私が25歳の時にすい臓がんで、父は私が35歳の時に肝臓がんで、亡くなりました。私は自分の家庭のことや子育てで、十分なケアをしてあげられなかったという思いをしばらく引きずっていました。
しかし、今では「その時、私はできる限りのことをしていた。他に選択肢はなかった」という事実を“明らか”にし、“諦め”ています(「明らか」と「諦め」は同源の言葉です)。
A.Mさんも、心の整理をつけて、以前のような生き方ができるまで、しばらく時間がかかるでしょう。「時間がかかる」ということを、まずは覚悟されるといいと思います。まだ2か月しかたっていないので、「母の死後、何をしていても楽しい気持ちになれない」のは、仕方がないのです。
自分の中のお母様の存在を意識
A.Mさんの現在の状況は、いわゆる「燃え尽き症候群」です。燃え尽き症候群になるのは、全力で取り組んだからこその結果です。
「2年間、全力でやった」という事実も、あらためて胸に刻んでください。親の看護をするのは当たり前と考えるのではなく、小さいながらも「やることはやり終えた」と自己肯定する作業は、前に進むための強力なエネルギーになります。
喪失感と寂しさについては、自分の中にいるお母様を意識するようになれれば、改善されていきます。
A.Mさんは、お母様のDNAを半分受け継いでいます。
それだけではありません。「こんなとき、母ならこう言うだろう」「こんなとき、母ならこうするだろう」とだいたい予想できるでしょう。それができるということは、A.Mさんの中にお母様が存在しているということです。
お母様から受けた人生の教訓の一つでも、ご自身の生き方に反映させているなら、A.Mさんはお母様と一緒にいるということです。こうした考え方を、仏教では同行二人(どうぎょうににん)といいます。
このように、さまざまな形で存在している亡き人を自分の中に意識することで、喪失感や寂しさは埋まっていきます。
遺族が営む法事の現場にいる坊主として実感するのは、亡き人を自分の中で整理していくには、およそ丸2年かかります。つまり3回忌です。
私たちは、強く思っていることを最後に言うクセがあります。3回忌までは、故人の想い出を話した最後に「でも、亡くなってしまいましたけどね」とおっしゃる方が多いのです。その場合、亡き人のことをまだ諦めきれていないことが多いのです。
3回忌を過ぎると、会話の冒頭で「亡くなった〇〇は」とおっしゃるようになります。こうなれば、故人について整理がついていると私は判断します。
「去年はクリスマスを一緒に過ごしたのに」「去年はおせち料理を食べたのに……」を二度経験することで、親しい人の死に折り合いをつけていくのです。
その意味で、何をする気力が起きなくても、お母様と一緒に行った季節の行事は、そのまま続けることをおすすめします。
「わからない」を放っておく勇気を持つ
取り寄せた戸籍謄本から発覚した伯母さんと叔父さんの存在については、お母様がA.Mさんに伝えなかった、それなりの理由があるのでしょう。
お母様は、その理由を墓まで持っていく覚悟をしていたのかもしれません。
いずれにしろ、今となってはその理由は推測の域を出ませんし、仮に明らかになっても、これから何かが大きく変わることはないでしょう。万が一、変わることになっても、A.Mさんがお母様の看護を2年間全力でやってきたように、問題に全力で対処すればいいのです。
仏教で使う不思議は「思議しない(考えない・思考を放棄する)」と言う意味です。「わからないことを『わからない』と放っておく勇気を持つ」ということです。
お母様が姉、弟の存在をA.Mさんに言わなかった理由も「不思議」として放って置かれればいいと思います。
「病気が治ったら一緒に旅行に行こう」「退院したらおいしいものを食べさせてあげよう」と夢見て看護された2年間……。しかし、その未来を置き去りにして、A.Mさんは、自分の中にお母様を意識しながら前に進んでいいし、進むしかないと思います。
50歳以降は親の看取りをする人が増えます。A.Mさんの周囲にも、看護に全力で取り組む人が出るでしょう。その人たちに良いアドバイスができるようになれるといいですね。
回答者プロフィール:名取芳彦さん
なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)など、著書多数。
構成=石丸繭子(ハルメクWEB)
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