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- エッセー作品「大なわとび」玉木裕子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「ラジオ」です。玉木裕子さんの作品「大なわとび」と山本さんの講評です。
大なわとび
スーイ、スーイ、スーイ。空気を切って縄が回る。大なわとび(長なわとび)である。
なわとび、とび箱、倒立、小学校のころは何度も何度も少し上の目標にむかって練習した。
中でも大なわとびとなると、ひとりではなく、グループで練習する。
わたしはこの大なわとびが苦手であった。
5~6人で大なわとびをするとき、入る順番をジャンケンで決める。一番になれば入りやすいが、6人全員が入るまで上手にとび続けなきゃいけない。ちょっと疲れる。
最後6人目なら今までみんなが上手にとび続けてきたのに、それを台なしにしてはならないという緊張感がある。
縄のまわる音を聞きながら、呼吸をあわせて覚悟を決め、勢いをつけてとびこむ。それでも失敗は何度もある。
このなんとも言えないきもちは、ずっとわたしの中にあった。
それが何十年も過ぎたあるとき、再び感じることがあった。
……大なわとびではありませんよ。
それは運転免許をとり、はじめて高速にのるというそのときだった。
ゲートでチケットを受け取り、さらに進むと本線への合流だ。
いよいよという、そのときだ。
車はみんな高速で走りぬけている。
さあ、そのリズムにうまく入っていけるのか。
あー大なわとびだ、と思った。
なわとびなら失敗しても「ごめん……。」でまたやり直せる。高速道路でそれはない。命にかかわる事態になりかねない。
「落ちつけ、わたし。」
と思いながら深呼吸をひとつ、ふたつめの深呼吸の吐く息とともにアクセルを踏む。
わたしももう小学生ではない。
少しは人生経験を重ねたはずだ。
そのときはそこまで考えてはいなかったけれど、年の功はたしかに背中を押してくれたようだ。
山本ふみこさんからひとこと
この作品と出合った皆さんのなかには、この表現世界、新鮮! とお感じになった方も少なくないでしょう。
「玉木裕子」のスタイルです。
書き手が、それぞれらしいスタイルをつかみとるのを、目の当たりにするときほど、うれしいことはありません。
スタイルは、かたちにも関わってきます。
漢字のこと(ひらがなにしようかな、どうしようかな、という……)。
「 」の使い方(会話の置き方)。
です・ます調でゆくか、である調でゆくか。
いろいろあります。
姿見の前に立って、その日の装い、拵(こしら)えを確認するときのように、文の「おしゃれ」についても敏感になりたいものです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年3月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
■エッセー作品一覧■
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