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- エッセー作品「晩秋に香り立つ」説田文子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「ラジオ」です。説田文子さんの作品「晩秋に香り立つ」と山本さんの講評です。
晩秋に香り立つ
今日はお天気。この頃、朝がたは寒くなってきたけれど、お昼過ぎは暖かくなるはず。買い物がてら、11月の午後にゆるゆると散歩に出かけた。
自宅を出て、小さな川を渡り、ショッピングモールがある駅前まで800mくらいの道には、松の木と桜の木が植えられ、反対側には椎の木が並ぶ。その木と木の間に芙蓉が植えられている。木々の根本は、芝生が少し(本当はたっぷりあったのだと思うけれど)と、たくましい雑草たちでおおわれている。
春から夏には、ハルジョオン、ブタナ、ポピー、タンポポ、カラスノエンドウ、ネジバナなどが色とりどりに花を咲かせているが、今は、桜の落ち葉で埋め尽くされている。
桜の木は、ソメイヨシノと八重桜がある。薄桃色の花吹雪が吹き、道一面の花びらが消えてなくなると、次に濃い桃色のポンポン花が枝を飾り、見上げて通る人々の目を楽しませる。
「桜の花びらのように、誰の手も煩わせずに、消えてなくなりたいものだ。」
駅前までの道を歩きながらそう思っていたこともあったっけ。赤や黄色の葉で覆われた同じ道を歩きながら思い出す。
時が過ぎゆく中で、後悔したり失望したりすることも少なくないが、今は「消えてなくなりたい」とは思っていない。過ぎゆく中で、心の澱(おり)みたいなものも過ぎて流されたようだ。
「流されていくことも悪くない。」
そんなことを思いながら、落ち葉の絨毯を眺めていると、ジーッと木々の間から強めの日が差した。カサカサと音を立てる落ち葉たちが、グッと熱を帯び香り立った。
乾燥した香ばしい香りと、若草を刈り取った後のような蒼い香りが混ぜ合わさり、子どもの頃に、すすき野っぱらで秘密基地を作ったときを思い出す。
「桜の落ち葉は赤や黄色で綺麗だけれど、香りには気がつかなかったわ。」
ひとり、しばらく立ち止まって、目と鼻と脳で桜を楽しみ、思いを浮かべた。
桜は花の季節だけでなく、落ち葉の季節もあり、冬には目に見えなくても、樹の中でみゃくみゃくと花の準備がすすめられているのだろう。
日が傾きかけると、少し肌寒い。今晩は鍋にしようと買い物に向かって歩き出す。
*ネジバナ 科名:ラン科
まちでみかける草丈:10㎝~15㎝
まちでみかける時期:花は6月~7月
*参考文献 「そんなふうに生きていたのね まちの植物のせかい」(鈴木純 著/雷鳥社)
山本ふみこさんからひとこと
「桜の花びらのように、誰の手も煩わせずに、消えてなくなりたいものだ。」
「流されていくことも悪くない。」
「桜の落ち葉は赤や黄色で綺麗だけれど、香りには気がつかなかったわ。」
何を描(えが)きたいかが、伝わります。
ことに、「 」のことば、どれもしかと受けとめました。
ああ、目に見えないものに、目を凝らしたい……と思わせていただきました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年3月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
■エッセー作品一覧■
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