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- エッセー作品「告知」小田原薫さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月のテーマは「でも」です。小田原薫さんの作品「告知」と山本さんの講評です。
告知
夫に病が見つかった。今年、喉の調子が少しずつ悪くなってきて、かすれ声はいつのまにかしゃがれ声に変わっていた。なかなか治らないので、通院していた耳鼻咽喉科の医師に書いてもらった紹介状を頼りに、総合病院を受診し、続いて3種類の検査を受ける。
すべての検査が終わって、医師は淡々と診断の結果を口にした。あまりに突然の告知だったので呆然としてしまい、問いかけることさえ頭に浮かばなかった。
病症の説明の合間、合間に「申し訳ないけど」「申し訳ないけど」を言われるたびに、夫はどんな気持で聴いているのだろうかと胸が苦しくなってきた。
40代のころ、高齢になれば年上の夫の世話をする生活になるだろうな、と漠然と想像していたが、現実はちがった。
世話をする側であったはずだった私の手助けを、夫にしてもらっている暮らしになったのが実情。その夫に病が見つかるなんて、そんなことが起こるなんて。
これからどういう気持を持って、夫との生活を築いていけばいいのだろうか。
頭の中がぐるぐるぐるぐる回って、何をどう考えればいいかさえ浮かんでこない。
そうだ。あわてることはない。落ち着こう。
目をつぶって大きな息をゆっくり吸って、吸って、吸って、吸って。
たっぷりの息を吐いて、吐いて、吐いて、吐いて。
吸うことと吐くことだけに意識を集中する。頭がからっぽになって、少しずつ落ち着いてきた。
人生には色々な出来事が前触れもなく、起こってくる。誰にもどうしようも出来ない。
嬉しいことばかりでなく、辛いことも容赦ない。それが運命ならば、どぉーんと受け止めるしかない。
「なるようにしか、ならへんよ」。
夫の言葉をいい意味に解釈して、告知の日を忘れないようにする。
いつか笑って話が出来る日が来るまでは。
山本ふみこさんからひとこと
告知。呆然。ぐるぐるぐるぐるぐる。頭がからっぽ。どぉーん。
こうしたことば選びからも、この作品がなまなかでない事態から生まれていることが伝わります。しかし、こころを落ち着かせて、静かに書かれているところが好ましく、ここからあたらしい何かが生まれるのだな、という読後感を持つに至りました。
落ち着こう。目をつぶって大きな息をゆっくり吸って、吸って、吸って、吸って。
たっぷりの息を吐いて、吐いて、吐いて、吐いて。
ここは、とてもいいですね。
吸うが、4つ。
吐いてが、4つ。
これからは、わたしもこれを意識しようと思います。
旦那さまの「なるようにしか、ならへんよ」にも打たれました。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
募集については、2024年1月頃、雑誌「ハルメク」誌上とハルメク365イベント予約サイトのページでご案内予定です。
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